午前二時、都会の静寂を突き破るように遠くでパトカーのサイレンが尾を引いて消えた。その残響さえ吸い込むような漆黒の闇の中で、私はキャンドルの炎だけを灯し、琥珀色の揺らぎに身を沈めていた。ワイングラスを傾けると、液面が月明かりを反射して胸元に波紋のような光を投げかける。その小さな光の震えが、これから始まる甘い逃避行の合図だった。

黒いサテンのランジェリーは、まだ値札の匂いを残したままベッドの端に広がっている。指先で布地を撫でれば、静電気が走ったように皮膚の奥がざわめき、言葉にできない衝動が背骨を駆け上がる。私はゆっくりと服を脱ぎ捨て、闇の密度と体表の温度差を味わいながら、鏡の前で見知らぬ生き物のような自分のシルエットに微笑んだ。

スマートスピーカーに囁くと、スピーカーからは艶めいたサックスの吐息とリズムセクションの低いうなりが流れ始めた。音は粒となって空気を震わせ、私の乳首をかすめ、膝裏に絡みつく。音楽はただのBGMではなく、この夜を共謀する共犯者だ。ベースの重低音が床板を揺らすたび、私は心臓の鼓動を忘れてしまいそうになる。

私はソファに腰を下ろし、ひざを組んでランジェリーを脚に這わせる。冷たいサテンが腿の内側をなぞり、すぐさま熱を帯びる。伸縮性のあるレースが臀部を抱き、わずかな圧迫が欲望の呼び水となった。呼吸が浅く速くなり、肺の奥に滞留していた日常の塵が一気に吐き出される。

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